バックナンバー 第91回~第100回

第91回 統計データに興味がある人にオススメ 

データ集  
  
図書館司書 北井 由香
  私のオススメ
   『男女共同参画社会データ集』 
  
三共社編
  三共社 2013年6月発行

 「男女共同参画」という言葉は、よく耳にする言葉だと思いますが、この本は、その男女共同参画に関する様々なデータを集めたものです。官庁によるデータ、自治体によるデータ、団体・民間によるデータ、国際比較データと様々な視点から様々な統計をみることによって、多角的にこの問題について見ていくことができます。
  日頃、テレビやインターネットによるニュースで、今の世の中は、こういうものだと漠然とは、あるかもしれません。しかし、実際に数字で見ていくと色々なことに気付かされます。主に意識調査なので、世の中人が今の社会をどう捉えているのか、今の自分の状況をどう考えているのか、それがとてもよく分かります。
 例えば、国が行った「日本の誇りは何ですか」に対して多かった回答が2008年の調査では(それ以前の調査でも)最も多かった回答が「長い歴史と伝統」だったようですが、それを上回ったのが「美しい自然」です。
 また、仕事に関しては「どのような仕事が理想的だと思うか」に対して、最も多かったのが「自分にとって楽しい仕事」、これも2008年の調査では(それ以前の調査でも)「収入が安定している仕事」でした。これらの回答1つをとってみても人々の意識が変わってきているのが分かります。
 そして、国際比較データ(アジア各国比較)にこのようなデータがありました。「子どもを1人だけもつ場合の希望する性別について」これに対して「男の子」を上回って「女の子」だったのは、日本だけでした。このデータからは、各国の実情も少し垣間見ることが出来るのではないでしょうか。
 統計によって出ている数字を見ていくと、漠然としていたものがはっきりと見えてくることもあります。実際のところ、このような統計書でなくてもweb上で公開されているものも多く、本でなくてもデータを調べることが出来るかもしれません。しかし、本で見ることによって、調べようと思ってなかった情報も目に飛び込んでくるので自分の視野が広がると思います。読んで見てみて自分が気になる問題を見つけてみてはどうでしょう。

第92回 犬を飼っている人にオススメ 

おすすめ本 
  図書館司書 安達 美咲
  私のオススメ  

   『犬と私の10の約束』 

   川口 晴著
   文藝春秋 2007年7月発行

 この物語は犬と、物語の主人公である飼い主の少女あかりとの間で交わされた10の約束がキーワードとなって物語が構成されている本です。
あかりの母の入院が決まってから飼いはじめた子犬「ソックス」犬を飼う条件として母に犬を飼うときの10の約束を教えられ、あかりはその10の約束を胸にソックスとの生活を始めます。
母が急死した時も、恋人が事故で怪我をし、ギタリストとしての未来が無くなった時もソックスはあかりの傍に寄り添い、癒してくれていました。しかし成長するにつれ自分の生活が忙しくなり、あかりはだんだんソックスを疎ましく思ってしまいます。
あかりは母と約束した10の約束を最後まで守ることが出来るのでしょうか。
犬を飼っている人は共感しやすい作品となっているのではないかと思いますので、是非手に取って読んでみて下さい。

第93回 話題の人の本をオススメ 

オススメ本 
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『第2図書係補佐』

   又吉 直樹 著
   幻冬舎発行 2011年11月 

 今回紹介するのは、お笑い芸人「ピース」として活動しておられ、最近では初小説『火花』が話題になっている又吉直樹氏の本です。
 『文學界』という文芸誌が、創刊以来初となる増刷になったというニュースを耳にした人も多いと思いますが、以前から読書家で知られており、雑誌にコラムを連載したり、共著を出版したりと様々な活動をされています。
 本書は、2006年~2009年の間に若手芸人が出演する劇場で発行していたフリーペーパーに掲載されていた本の紹介のコラムをまとめたもので、太宰治好きとして有名な著者ですが、吉本ばななの『キッチン』なども紹介されていて様々な作家、ジャンルの本に触れることが出来ます。
 また、本書で紹介されている森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』は、不思議な女の子が登場する本ということで、著者(又吉)が小学校時代に出会った不思議な女の子のエピソードとともに紹介されています。このように本書は、本の紹介というだけではなく、著者のエッセイとして楽しめるところもオススメです。是非手に取ってみてください

第94回 書物を哲学的に語りたい人におススメ 

 おススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『思考の取引 -書物と書店と-』

   ジャン=リュック・ナンシー著  西宮かおり訳
   岩波書店発行 2014年8月   

 タイトルに惹かれて読み始めたものの、少し難解な本でした。書物と書店について哲学的に語られたもので、フランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーが、ストラブールの書店、ケ・デ・ブリュムのために書き下ろしています。
  書店のために書かれた本だけあって、書物というものは、書店があってこそのものだということが所々に書かれています。書店主は、書物の配達人。その顧客た ちは、書物の読者でもあり、店の読書の読者なのだと語られています。(その読書は、本を1冊1冊読む読書ではなく、選択としての読書という意味で)
  書物についても、様々な視点で哲学的に色々書かれていますが、例えば「書物とは、伝達のための運搬手段や支持体として片づけられるようなものではない。そ れは無媒介に、それ自体で、何よりもまず、みずからを相手におのれを伝達し、取引するものなのだ。真に書物を読む者は、この取引に加わるほかない。書物は いわば自分自身でみずからを伝達するのだ(略)」
 読むということについては、「書物の形質をそのたびごとにあらたに描き直す。いわば刷り直すようなものであり、編集し直すといってもいい。読むという行為は、書物の形質を綴じ、読み直すのだ」のように書かれています。
  もうこの本を読みたくなくなったかもしれませんが、初めて読んだ時には、理解出来なかったことが、もう1度読んでみると理解できる、さらにもう1度読んで みると、さらに理解が深まる。私は、そこがこういう本の面白さでもあると思っています。「書物とは、一個の対話である」という言葉が本書の中に出てきます が、その通りのような気がします。書物に書かれていることは、変わりませんが、その時の自分の状態によって受け取るものが変わる。それは、その日の気分に よってかもしれませんし、環境による変化、経験したことでの変化かもしれません。
 読書について語られる時に「最初の方を読んでつまらないと思っ たら、もうその本は読まなくてもいい」と言われることがありますが、それでも読み進めていくと、最初の印象がガラリと変わってくることもあります。苦手だ と思う本にも少しだけ我慢強く向き合ってみると、それが好きに変わることもあるかもしれません。
 訳者あとがきにこのようなことが書いてありました。「本を抛(ほう)りたくなったとき、人と話すように本を読み、人から逃げたくなったとき、本を読むように人と向き合ってみると、どちらもうまくころがりだすかもしれません」是非、ご一読を。

 

第95回 想像力を養いたい人におススメ 

おススメ本
   図書館司書 安達 美咲
   私のオススメ
   『道のむこう』

   ベルンハト・M.シュミッド著
   ピエ・ブックス 2002.5月   

 地平線に向かってまっすぐに伸びている道、山岳地帯にある曲りくねった険しい道、紅葉した木々の真ん中にある道や花畑の中心にある道路とは呼べないような田舎道。
国内、国外の様々な道の写真が載っていますが、道の先に何があるかまでの写真は掲載されておらず、道の途中を切り取った写真ばかりを集めた写真集。それがこの「道のむこう」という写真集です。
  この写真集を見ていると、この道の先には何があるんだろう、どんな景色が広がっているんだろう」と想像力を掻き立てられ楽しくなってくるとともに、ただの道の写真ですが見ているだけでとても清々しい気持ちになったり、その道を使用している人や家などが一緒に映っていたりするとその国の日常を垣間見ることが出来た喜びみたいなものが湧きあがってきました。たかが道ですが、その国の日常生活を垣間見ることに最も適してものは「道」なのかもしれませんね。
この機会にぜひ手にとって見てください。

 

第96回 暑い季節に"怖そう"なタイトルの本をオススメ  

死神の精度
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『死神の精度』

   伊坂 幸太郎著
   文藝春秋発行 2005年6月発行      

 この作品は、私にとって自ら手にすることはなかったであろう作品です。理由は、ホラーやサスペンスが苦手だから。「死神」というタイトルを見て敬遠していました。
 その私がこの作品を読むきっかけとなったのは、昨年度参加した学生図書委員主催の読書会で取り上げる作品になったからです。
 意を決して読んでみると、想像していたような恐ろしい死神が出てくる作品ではなく、読み始めてすぐに主人公の千葉(死神)に引き込まれていきました。
 死神は、普通の人間の恰好をしており、「死」を実行してよいかどうかの調査を1週間して情報部に「可」か「見送り」の報告するというのが仕事です。調査期間中に起こる様々な出来事を通して、死神がどちらの報告をするのかというところが楽しみの1つです。
 また、読書会で話題になっていたのは、タイトルになっている死神の「精度」とは何なのかということです。「制度」ではなく「精度」という所について考えてみると、死神の報告に納得出来るような、出来ないようなという面白さがあります。
 私が、読書会というきっかけでこの作品に出会ったように、みなさんのきっかけになればと思いオススメします。続編に『死神の浮力』という作品もありますのでこちらも合わせてどうぞ。

 

第97回 司書資格取得を目指している人にオススメ  

死神の精度
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『NDCへの招待-図書分類の技術と実践-』
   
蟹瀬 智弘著
   樹村房 2015年5月発行

   『分類法キイノート』
   
宮沢 厚雄著
   樹村房 2015年4月発行     

   昨年、2014年12月に「日本十進分類法(NDC)新訂10阪」が出版されました。図書館関係の授業を受けていない人には、馴染みのない言葉だと思いますので、簡単に説明します。
 まず、図書館で所蔵している本の背ラベルに数字が書いてあるのをご存知ですか?ほとんどの図書館で3桁以上の数字が書かれていると思いますが、その数字は、その本がどの分野について書かれたものかを示している数字です。例えば「017」なら「学校図書館」について、「521」は、「日本の建築」について書かれている本という具合です。さて、この数字を何に基づいて付けているのかというと、先程紹介した「日本十進分類法(NDC)」に基づいて付けているのです。分類すると言います。
 現在、新訂10版まで出版されていますが、時代とともに出版される本も違ってくるので、数字が所々変わります。例えば、インターネットが一般的ではない時代の8版では、情報科学の分野は、約20くらいにしか分類が出来なかったものが、新訂10版では、約70くらいの項目に分けられていて細かく分類ができるようになっています。
 分類作業は、基本的には、まず、その資料の主題を分析した上で分類するのですが、分析も大変な作業の一つです。例えば、「石」について書かれた本を分類する時には、主題によって「建材」⇒524.22、「自然崇拝」⇒163.1、「造園学」⇒629.61、「彫刻」⇒714、「鑑賞用」⇒793.9、「土木材料」⇒511.42になります。このように同じ言葉のものでも、どの観点で書かれているかによって分類は変わってきます。そのため、主題を分析するには、タイトルからだけではなく、前書き、後書き、解説を見たり、目次、本文を確認したり、著者の専門分野が何であるかを調べたりもします。
 そして、主題分析のあとは、分類の付与です。この付与にも様々なルールがあり、同じ内容について書かれた本でも、それが事典になると分類が変わりますし、地理、時代、言語の違いによっても分類が変わることもあります。実務の中でも分類の付与には、悩まされることが結構あります。
 これらの本は、新訂10版についての解説は、もちろんのこと、主題分析、分類付与についても詳しく丁寧に説明がしてあり、とても分かりやすい内容になっています。仕組みが分かってくると、分類作業も楽しくなってくると思います。演習問題もありますので、分類についてある程度理解をしたら、実際に自分で分類を付けてみるのもいいかしれません。 おススメの2冊です。

第98回 「つながる」ことに疲れている人にオススメ  

死神の精度
  図書館司書 北井 由香
  私のオススメ
  『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』

  田中輝美,法政大学社会学部メディア社会学科藤代裕之研究室著
  ハーベスト出版 2015年8月発行  

   最近、よく耳にする言葉「つながり」様々な場面で求められ、様々なところで課題になるこの言葉。けれど、私は、この「つながり」に少々疲れ気味です。つながりましょう⇒つながりました⇒それで?その先は?無理してつながる必要があった?と。
  地域ではたらく「風の人」風の人というのは、その土地一カ所に定住せず、地域で新しいコトを起こす人。それに対して地域に根差すのは「土の人」この風と土 で地域は成り立っていると言われます。これは、新しいコトを島根の地域で起こした8人の「風の人」たちを紹介した本です。
 この本、とにかく面白かったです。自分が本当に面白かった本を薦める時には、伝えたいことが多すぎて、「とにかく面白かったから読んでみて」としか言えなくなりますね。
  とは言え、おススメするのだから少し紹介をしますと、まずこれは、法政大学社会部藤代ゼミ生たちが取材をして書いたものです。ものすごくよく取材されてい ます。相手と向き合い、言葉を引き出し、それを正しく理解して(この正しく理解する作業が最も大変だったようです)、文章で伝える。取材のプロでもない学 生たちがここまでのものにするのは、本当に大変だっただろうと思います。けれど、8人の魅力がすごくよく伝わるモノになっています。しつこいようですが、 本当に面白い本です。
 この本を読んでつながるとは、こういうことなんだというのを突き付けられた気がします。そして、こういうつながりなら、つながるのは、悪くないと思いました。
 実は、この本を読んでいる途中で、他大学からこの本に貸借依頼が入りました。国内所蔵館が本学のみの資料だそうです。おススメ本として勧めておきながら10月にならないと返って来ません。すみません。

 

第99回 各国の習慣や文化に興味がある人にオススメ

 死神の精度
   図書館司書 安達美咲
     私のオススメ
   『さおり&トニーの冒険紀行 フランスで大の字』

   小栗左多里, トニー・ラズロ著
   ヴィレッジブックス 2011.12月  

小栗左多里&トニー・ラザロの海外旅行記「〜で大の字」シリーズ
二人のことは映画化もされた漫画「ダーリンは外国人」で知った方も多いかと思います。
「ダーリンは外国人」では言語マニアで大量の外国語を操るトニーとその妻で漫画家の小栗さんが結婚を通してそれぞれの国の文化や習慣の違いを理解し、尊重しながら生活する様子を描いていましたが、今回の「大の字」シリーズでは、旅行先で体験した事を描く体験ルポとなっています。
今回の旅行先フランスではレストランやお菓子屋さん、ステンドグラス作り、香水つくりと言った事を体験しながら外国人と日本人、そして現地の人という三つの視点や価値観でその国の文化、習慣について語っているので、その国の習慣や文化に興味がある人にはお勧めの図書となっています。
是非手にとって読んでみて下さい。

第100回 方言に興味がある人にオススメ

 ものの言いかた西東
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『ものの言いかた西東』

   小林隆、澤村美幸 著
   岩波書店発行 2014年8月 

 方言というと、「ありがとう」「おおきに」「だんだん」といった言葉の違いを思い浮かべることが多いと思いますが、本書では「ものの言いかた」や「話し振り」の地域差について書かれています。これは、関西の人はおしゃべりで、東北の人は無口というようなイメージや物事を間接的に言うのか直接的に言うのかという、一見すると個人の性格によると思えるこのような言いかたの違いに地域差があるというのです。
 例えば、家庭内で起床時や外出時にあいさつをする割合は、東北の青森では74.3%に対して、関西の三重では94.1%の人があいさつをするという結果が出ています。また、朝道端で友人に出会った時、どのように声をかけますか?私は、まず「おはよう。」と声をかけるような気がしますが、本書で紹介されている気仙沼市の会話の調査では、「アレー、ドゴサ行グノー。」「仕事スサ。」という例があがっています。他にも著者の経験談ですが、東北でバスを待っていたら見知らぬ人に唐突に「このバス、○○通るか?」と聞かれたとのこと。
 このような例は、単刀直入に端的に用件を伝えるという特徴が東北にはみられることを表しているようです。
 本書を読んで、話し方はひとりひとりの性格や個性によるものだと思っていましたが、地域差が関係している面もあるということ、また方言には、今回紹介したような「ものの言いかた」も関係しているという新しい発見が出来ました。興味のある人は手にしてみてください。