バックナンバー 第81回~第90回

第81回 学生生活・新年度のスタートにオススメ 

オススメ本
  図書館司書 馬庭 佳緒里
  私のオススメ
   『学生時代にやらなくてもいい20のこと』

   朝井リョウ 著
   文藝春秋発行 2012年6月
 
 デビュー作『桐島、部活やめるってよ』をはじめたくさんの人気作品を手掛けている朝井リョウのエッセイです。
 「学生時代にやらなくてもいいこと」なんて聞くと、では何を学生時代にやらなければならないのかということを考えてしまいそうですが、本書はそのようなものとは全く違い、執事カフェに行った思い出や地獄の100キロハイクに参加した話など、著者の学生時代の思い出が綴られていてどれも読みやすく面白いものばかりです。
 学生ゆえの無茶苦茶な行動やそれを一緒に楽しめる仲間たち。ここに書かれていることはやらなくてもよかったことかもしれませんが、やらなかったら面白さ半減、やらないなんてもったいないというような経験ばかりです。
 著者のこのような経験に触れると、自分自身も普段とちょっと違った経験をしてみたいという積極的な気持ちになるような気がします。
 学生生活をスタートする1年生のみなさんはもちろんのこと、学生生活を十分楽しんできた2年生にもおすすめです。
  

第82回 絵画に興味がない人にもオススメ 

オススメ本
  図書館司書 北井 由香
  私のオススメ
   『楽園のカンヴァス』

   原田 マハ 著
   新潮社発行 2012年1月
 
 私は、小説をあまり読む方ではありませんが、それでも面白い作品には、けっこう出会っています。ただ、その世界に引き込まれて先を読まずにはいられないそんな衝動に駆られるような作品に出会うことは、めったにありません。この本は、そんな衝動に駆られて読んだ本です。
 冒頭、岡山にある「大原美術館」を舞台に1枚の絵が紹介されるところから物語は、始まります。ニューヨークの近代美術館MoMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウンから、大原美術館で監視員をする早川織絵を窓口にしてくれるなら借り出すことがとても困難なMoMAの至宝を貸し出してもいいとの連絡が入ります。なぜ一介の監視員にそんな依頼が?
   実は、織絵は、パリ第四大であるソルボンヌで学び、博士号を修得した後に学会で次々と論文を発表し、美術史壇を賑わせていた人物だということが明らかにされます。そこから物語は、過去に遡り、この物語の柱となるティム・ブラウンとの関係も明らかにされていきます。
 1枚の絵、アンリ・ルソーの作品を巡っての2人の対決。この絵は、真作かそれとも贋作か。2人はこの絵をどう判断するのか。どちらか勝つのか。そして、この絵の本当の意味は。謎が解き明かされる度に作品に引き込まれ、それは、正にミステリーの世界です。
 この作者自身、美術に関しては、とても造詣が深く、美術史科を卒業後、マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル美術館設立準備室に勤め、作品にも出てくるニューヨーク美術館に派遣され勤務した後にフリーのキュレーターになっています。美術館の裏側についても少し描かれているのでその辺りも楽しく読めるでしょう。
 そして、この作品でもう1つ注目して欲しい絵は、冒頭で紹介された1枚の絵、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌが1866年に描いた縦2メートルを優に超える作品「幻想」です。この絵は、大原美術館が所蔵しているものですが、現在、島根県立美術館開館15年記念として日本初のシャヴァンヌ回顧展が開かれており、島根県立美術館でその作品を目にすることが出来ます。なぜシャヴァンヌ回顧展が日本初なのか、その理由も行ってみてのお楽しみです。この本を読んで、是非「幻想」を見に行ってみて下さい。

第83回 動物を飼おうと思っている人にオススメ 

オススメ本
  図書館司書 安達 美咲
  私のオススメ
   『ありがとうわさびちゃん

   わさびちゃん 著
   小学館出版 2013年11月
 
 こちらの図書の表紙に使われているたらこの「おくるみ」につつまれた子猫わさびちゃんですが、皆さんツイッターやニュースなどで一度は見たことがあるのではないでしょうか。
 この図書は生後2.3週間ほどの子猫が平成25年の6月、路上でカラスにつつかれているところを後の飼い主になる「父さん」と「母さん」が見つけ、保護し、一緒に暮らした87日間を記録した写真集となっています。
 このわさびちゃんですが、保護された時には、顎の骨が粉砕骨折し、舌も切れているなど大怪我をした状態でした。その日から父さんと母さんは自分では食べることのできない子猫に2時間おきにカテーテルでミルクを与える生活を始めます。このカテーテルを与えるときにわさびちゃんが嫌がって暴れるのを防ぐためにつくられたのがこの表紙にもつかわれている「おくるみ」でした。
 87日間に及ぶわさびちゃんと飼い主の絆、また、犬のぽんちゃんや文鳥のぼーちゃんとの心あたたまるやりとりの写真も載っています。
 昨今、悲しいことに飼い犬、飼い猫を簡単に捨ててしまう人も増えていますが、捨てる前、また、これから動物を飼おうと思っている人は動物を飼うこと、その責任などをこの本を読んでもう一度よく考えてみてください。 
 

第84回 短歌に興味を持ってもらいたいのでオススメ 

短歌をよむ
  図書館司書 馬庭 佳緒里
  私のオススメ
   『短歌をよむ(岩波新書)』

   俵 万智著
   岩波書店発行 1993年10月
 
 7月6日はサラダ記念日だって知っていましたか?
 ピンときた人も、「え、そうなの!?」と驚いた人もいると思います。

    「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

 この短歌は、1987年に出版された俵万智さんの歌集『サラダ記念日』に収録され、記念日の由来となっている短歌です。
 私が今回オススメする『短歌をよむ(岩波新書)』には、俵さんの短歌論や作歌活動について書かれており、この短歌の作成過程についても少し触れられています。
 この短歌について俵さんは、きっかけとなった出来事による「心の揺れ」が伝わるような表現と短歌には欠かせない音やリズムを考えて言葉を選ばれたようです。そのため、短歌の世界すべてが、現実というわけではない場合も。
 この「心の揺れ」を表現するという考えを聞いて、自分に同じような経験がなくてもこの短歌いいなと思えるのは、この「心の揺れ」が感じられたりそれに共感したりするからなのだろうと感じました。
 さて、今回紹介した短歌はどのようなきっかけで生まれ、どのような過程を辿ってきたのでしょうか。気になる人は本書を開いてみてください。

第85回 いつも怒っている人にも怒れない人にもオススメ 

怒りの方法
  図書館司書 北井 由香
  
私のオススメ
   『怒りの方法(岩波新書)』

   辛淑玉(, 숙옥
   岩波書店発行 2004年5月
 
 著者は、自他ともに認める「怒り上手」。差別的発言に場の空気を気にせず、指摘、テレビや電車の吊革広告にも怒り、講演会での質問、友人の言葉にも怒る。
 「怒る」ことは、喜怒哀楽の感情の中で悪いことのように思われているが、そうではなく、正しく怒ることは、人間性を取り戻すために最も重要なことだと強調する。自分は、何に対して怒っているのか、何が腹正しいのかをきちんと見極めて、伝える。それが出来ないと、怒りの矛先が全く関係のない人に向いてしまうことがある。言いやすい相手に怒りをぶつけて大切な人を傷つけてしまう。
 怒りの表現方法を一歩間違うと、とんでもないことになるが、著者が最も有効な怒りの表現方法として提案しているのは、「問題解決型」。効果的に怒る方法として技術編、スタイル・パフォーマンス編があり、怒る時の声、服装、姿勢、目、手、あごに至るまで決まりがある。そして、どれも納得出来て面白い。怒れない人は、どうしたらいいのか、逆に怒りをぶつけられた時には、どうしたらいいのかも書いてあるので怒りに対しての心構えは、これで大丈夫。
 ちなみに、その他の怒りパターンは「噴火型」「イヤミ型」「放火型」「玄関マット型」があり、私は、おそらく玄関マット型。で、これが1番の問題なのだそう。
 毎日、何かに怒っている、誰かに怒っている。感情のままに怒りを出してしまう。怒って人間関係が ギクシャクするのが怖い。怒れない。そんな人に是非読んで欲しい1冊。
 この本を読んでいると、だんだんこう思えてくる。怒ってもいいんだ。怒りを上手に表現出来ればいいんだ、と。そして、本書に出てくる女性のように「怒るってなんて体にいいのだろう」「体中からエネルギーが湧いてくる」そう思えるくらいになれればしめたもの。

第86回 言葉を勘違いしておぼえてしまっている人にオススメ 

怒りの方法
  図書館司書 安達 美咲
  私のオススメ
   『「意外と知らない日本語」の本』

   日本語表現研究会 著
   PHP研究所発行 2014年2月
 
 突然ですが、皆さんは正しい日本語をつかっていますか?
 日本人の日常会話は日本語なのでもちろん正しく使っている、と思われている人は多いのではないかと思います。
 私たちが日常会話に使用している「日本語」この日本語ですが、クイズ番組では必ずと言っていいほど漢字の問題や敬語の問題が出題されています。
 クイズ番組で出題するのだから難しい問題なんだろうな、と思うかもしれませんが、意外と私たちが日常使っているような言葉や敬語の問題が多いのです。例えば「完璧」という漢字。璧の下の部首を土へんだと思っていた人、「大団円」のことを「大円団」だと思っていた人は多いのではないでしょうか?
 私が今回オススメするこちらの図書「意外と知らない日本語の本」ではこのように間違って覚えてしまっている漢字や敬語のみを厳選して収録してあり、二者択一問題や誤字修正クイズ形式の問題など、楽しみながら改めて「日本語」について学べる内容となっておりますので、勘違いして覚えてしまっている日本語はないか確認するためにも手に取って読んでみて下さい。

第87回 趣味に困ってしまう人にオススメ 

趣味は何ですか?
  図書館司書 馬庭 佳緒里
  
私のオススメ
   『趣味は何ですか?』

   高橋 秀実著
   角川書店発行 2012年11月
 
 「趣味は何ですか?」
 私はこの言葉を聞くとドキッとします。すぐに趣味が思い浮かばず、答えに詰まってしまうからです。
 みなさんはどうでしょうか?多趣味だという人もいれば、履歴書や面接の際に困りがちだという人もいるのではないでしょうか。
 著者の高橋秀実氏も趣味を聞かれると困ってしまうひとりのようです。
 本書では、その著者が様々な趣味を取材し体験した様子が綴られていて、読んでいくうちに趣味の世界は奥が深く根気がいるもののように思われました。
 しかしそれと同時に、電気のメーターを見てエコに気を付けることが趣味などと聞くと、趣味についてちょっと構えすぎていなのではないか、これならば私にも何かひとつ好きなこと、趣味があるのではないかという思いにもなり気持ちが楽になったように感じます。
 読書の秋やスポーツの秋などと言われ趣味を楽しむ人が多いこの季節。「趣味は何ですか?」ドキッとした人は本書を手にしてみてください。

第88回 「知らなかったことを知る」楽しさを感じたい人にオススメ 

趣味は何ですか?
  図書館司書 北井 由香
  私のオススメ
   『白川静 -漢字の世界観-』(平凡社新書)

   松岡 正剛著
   平凡社発行 2008年11月
 
 白川静、知らない人は少ないと思います。言わずと知れた日本の漢字学者であり、東洋学者でもあります。白川氏の研究は、もともと日本の古代を考察するところから始まっていますが、比較研究の必要性から中国の古代に広がり、漢字文化圏全体に亘る壮大な研究になっています。漢字に関しては、白川氏独自の学説(字説)を打ち立て、今やその学説は世に「白川文字学」とも言われるまでになっています。
   具体的にどのような字説かと言いますと、例えば、白川氏の代表的な解釈の例として「口」というのは、唇や歯のある口のことではなく、実は「 」という形のもので、入れものを示している。しかし、ただの容器や箱などの入れものではなく、祝詞や呪文のようなとても大事な言葉、つまり言霊を紙や木に書いていれておく容器、それを象徴したものである。とういうようなものです。
 そして、さらに「告」は、「説文解字」では「牛は人を突くので、角に横木を取り付けて、それで人につげ知らせたもの」と解釈されていますが、白川氏は、その象形を見て、上の部分は、榊の枝葉、「口」は器で、器に榊の枝葉を掲げて神への報告やおつげを待つときのスタイルを表すと解きました。
 白川氏は、漢字の起源は民間の暮らしではなく、神事と政治に関わりがあり、漢字の形成を通して古代人の思想が浮き彫りになる。と言っています。
 私が紹介するこの「白川静 -漢字の世界観-」では、その名の通り白川静の世界観が丁寧に分かりやすく書いてあります。白川静自身の著である「漢字」という本も読みましたが、こちらは、かなり難解な内容になっているので、まずはこちらの方を白川静の案内版として一読されるのをおススメします。
 白川氏が述べられた言葉で「学問においては『孤形独往(こけいどくおう)』を尊ぶのです。孤絶、独往を少数派などというのは、文学も学術もまったく解しない人の言うことです。(中略)学問の道は、あくまでも『孤形独往』、雲山万畳(うんざんばんじょう)の奥までも、道を極めてひとり楽しむべきものであろうと思います。」という言葉があります。  
 この言葉は、白川氏が「学ぶ」ということを心の底から楽しんだ証しに違いありません。私もこの本を読んで、自分の知らなかった、全く新しいことを「知る」ということが刺激になるものであり、とても楽しいものだと感じました。皆さんも同じように「知る」楽しさを感じてみませんか。

第89回 三谷幸喜節を感じたい人にオススメ 

趣味は何ですか?
  図書館司書 安達 美咲
  私のオススメ
   『清須会議』
   三谷 幸喜著
   幻冬舎出版 2012.6
 
 脚本家として有名な三谷幸喜氏が著者で、映画化もされ話題になった「清須会議」 この清須会議とは、織田信長が本能寺で明智光秀に殺され、その光秀が羽柴秀吉に殺されたあとで、織田家の宿老達が清須城に集まって後継者を決めるために行われた会議の事を言います。
   このように書くととても難しい歴史ものかと敬遠しがちですが、この図書では三谷幸喜節がさく裂した現代語訳、例えば信長が火にまかれているシーンのモノローグ「俺の周囲を囲んでいる紅蓮の炎はやがて俺の体を焼き尽くすであろう。せっかくなんで、ちょっとかっこよく言ってみたよ。」だったり、お市の方のモノローグ部分「若いくせに禿げ上がった額に、脂汗がにじみ出ているわ。いい気味です。もう少し無言なままでいてやりましょう」など歴史上の人物像を崩さない程度のユーモアあふれる訳のおかげでとても読み進めやすい作品となっています。  
 この清須会議ですが、映画化もしておりますので、図書を読んだ後、映画も観てみてはいかがでしょうか。

第90回 冬の時期にオススメ 

ウィンター・ホリデー
  図書館司書 馬庭 佳緒里
  私のオススメ
   『ウィンター・ホリデー』
   坂木 司著
   文藝春秋 2012年1月発行
 
 本作は、2007年6月に出版された『ワーキング・ホリデー』の続編で、元ヤン、元ホストで現在は宅配便のドライバーである大和と夏休みに突然現れたしっかり者の小学5年生の息子進の物語です。
 普段は離れて暮らす2人ですが、夏休みに続いて冬休みの期間一緒に暮らし、大和の元同僚のホストや宅配業者の仲間たちとの日常が描かれた心温まる作品になっています。
 なかでも、大和が進のことを想う気持ちにとても心が惹かれます。冬休みに行きますと進から連絡が入ったたけで「胸が、どきどきする。」「俺の人生に色がついているような気がする。」と喜んだり、進が来る日には「ちゃんとしてるんだね」と言われたくてゴミの分別を完璧にしてみたりと子どものような様子にこちらの気持ちも明るくなります。
 大和が進の存在によって仕事や日々の生活に前向きに向き合う姿に心が熱く、そして温かい気持ちになるこの季節にぴったりな作品です。