バックナンバー 第51回~第60回

第51回 『チョコレートの奇跡』

チョコレートの奇跡

  図書館司書 馬庭 佳緒里
  私のオススメ
   『チョコレートの奇跡』
   
楠田 枝里子 著
   
中央公論新社 2011年

 私は甘い物を食べるのが大好きです。中でもチョコレートは1番好きで、これからの季節はいろんな種類のチョコレートをたくさん、毎日のように食べています。好きな物をたくさん食べるのはとても幸せなのですが、どうしても気になることがひとつ。
 それは、チョコレートを食べると太ってしまうのではないか、ということです。そんな私と同じような心配をしている人にこの本をオススメします。
 第1章は「驚異のチョコレート・パワー」という題で、今まで知らなかったチョコレートの秘密が書かれています。チョコレートは太るというイメージが強いですが、実は肥満や動脈硬化の原因にもなる糖尿病の抑制や、冷え性の改善、アンチエイジング効果など、意外とも思える効果があるそうです。しかし、ひとつだけ注意点があり、砂糖がたくさん入った甘いチョコレートではなく、カカオ成分が多いもの、つまりビターチョコレートが良いそうです。
 第2章は、「チョコレートの世界を巡って」と題して、楠田枝里子さんの様々なチョコレートの関する体験や経験のエッセイになっています。私はこの章を1番楽しんで読みました。文章から、楠田枝里子さんのチョコレート好きがすごく伝わってきて、読んでいるだけでわくわくした気持ちになりました。
 第3章は「ショコラティエの饗宴」で、世界中の人気ショコラティエの人柄や創作秘話について紹介されています。
本書を読んで、色んなチョコレートの秘密を知ることができ、ますますチョコレートが好きになったような気がします。これからの季節、チョコレートを食べるのが楽しみになる1冊です。

第52回 『世界チーズ大図鑑』

世界チーズ図鑑
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
    『世界チーズ大図鑑』

   ジュリエット・ハーバット監修
   柴田書店 2011.1

  「チーズ」と一言で言っても種類は、様々で、この本に書かれている種類だけでも25カ国、750種類以上のチーズが紹介されています。全て写真付きであることに加え、原産地、熟成期間、重量と形状、大きさ、乳種、タイプ、由来、味の特徴、おいしい食べ方、生産者に至るまで詳細に書かれています。
 日本国内生産のチーズとして紹介されているものは、9種類しかないのですが、その中の1つに島根県雲南市で生産されている(生産者:木次乳業)「プロボローネ」というチーズの紹介がありました。面白いのは、そのおいしい食べ方の項目です。「調理すると香りが増す。餅にのせて焼いても美味。とくに地元産の仁多米の餅との相性は抜群。あるいはやはり地元産の奥出雲和牛とともに、醤油をかけて。ハチミツをたらして焼いてもおいしい」これを読むと、この通りに食べてみたくなりませんか?
 他のチーズの紹介を見てもありきたりの食べ方ではなく、ユニークな食べ方が多く紹介されているので読んでいると面白く、その土地の文化を知ることにもなります。
 もともとチーズは、自然条件の下で、家畜の乳を使い、保存食品として発達して来たものであるため、当然ですが、各国・各地によって原料乳(主に牛、羊、山羊、馬、ラクダ、トナカイ等)が違います。気候や土壌環境、放牧環境によっても違いが出てくるので多くの種類のチーズが出来て来るという訳です。
 著者は「本書の分類方法を使えば、フランスの市場だろうとニューヨークのチーズ店だろうと99%のチーズを一目見て、軽く触れるだけで分類できる。少し練習を積めば、チーズの基本特性やフレーバー、調理時の変化、熟成度、品質などを見極められるようになるはずだ」と言っています。
 本書で紹介されている多くのチーズは、日本国内で手に入れるのは、難しそうです。外国に行かれた際には、その土地のチーズを味わってみてはどうでしょうか?

 参考文献
 相賀徹夫編(1987)「日本大百科全書 15」小学館 p245-248
 下中直也編(1988)「世界大百科事典 18」平凡社 p47-48

第53回 『怖い絵』

怖い絵
   図書館司書 山岡 麻衣
   私のオススメ
    『怖い絵』

   中野京子著
   朝日出版社 2007.7

 「本書は、16世紀から20世紀の西洋名画に潜んでいる秘密を解き明かし、その内に潜んでいる様々な形の「恐怖」を紹介したものです。
 紹介されている名画は20作品。見ただけではどのような恐怖が潜んでいるのか全く気づかないものや、見た瞬間見た者を戦慄させる恐怖のものなどが、歴史の裏を知り尽くした著者により、一つ一つ丁寧に解説されています。
 本書の表紙カバーに使用されている、ラ・トゥール「いかさま師」は本書の一番最後、作品20で紹介されています。
 卵形の顔の女性の極端な横目遣いが、何を指しているのか、酒を注ぐ給仕女が頭に巻いている黄色のターバンにはどのような意味が込められているのか。著者の豊富な知識、絵が描かれた時の時代背景や文化を知ることで、徐々に絵に隠された物語に気づいていきます。
 一つの作品を読み終わって、少しホッとしたところにすぐに次の作品の恐怖が待っています。
 ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」、アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」などは、作品を見た瞬間に恐怖を感じます。これらの解説では、ギリシャ・ローマ神話、旧約聖書外伝も説明されており、読み進めるに連れて第一印象からは少し違った見方になっていきます。
 著者の説明に沿って、絵を何度も確認していくうちに隠された秘密に気づいていく。見ているようで見ていない細部まで知ることで、皆さんも絵画の魅力と様々な恐怖を味わってみてください>

第54回 『45分でわかる!14歳からの日本語の基本。』

45分でわかる!14歳からの日本語の基本。
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ  
   『45分でわかる!14歳からの日本語の基本。』

   北原 保雄著
   マガジンハウス 2009年

 間違った日本語としてよく聞かれる「ら抜き言葉」や、難しい印象を持っている人も多いと思われる「敬語表現」、また、ネット用語や若者言葉の「新語」など、様々な日本語の問題について書かれています。
 なかでも私は、「間違えやすい日常の言葉」として挙げられていた「重言」について、はっとさせられました。重言は、「馬から落馬する」など同じ意味の言葉を重ねて使う正しくない言い方です。「馬から落馬する」は同じ「馬」という字が使われているため、すぐに重言だと気付くことが出来ます。
 しかし、「留学に行っていた兄が帰って来た」という言い方はどうでしょうか。これは「留学」が「海外に行って勉強する」という意味であるため、「留学」と「行く」が重言になります。「留学していた兄が帰って来た」と言えばいいのですが、私はこの例文を見た時に、うっかりこのような言い方をしているかもしれないと感じました。意味は伝わるかもしれませんが、少しの言葉の違いで間違った表現になるため、気を付けたいと思いました。
 また、慣用句や熟語、漢字の読み方書き方についても、いくつか間違いやすい表現が紹介されています。2択の問題形式になっていて、正しい表現と解説が書かれているのですが、一瞬どちらだったかなと迷うところがあり、改めて日本語の難しさを感じました。
 本書は、タイトルに「45分」とあるように、それぞれの問題について短く解説されているため、とても読みやすいです。日本語に興味がある人や、日本語の使い方に不安がある人に是非手に取ってもらいたいです。

第55回 『おさがしの本は』

おさがしの本は
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ  
   『おさがしの本は』

   門井 慶喜著 
   光文社 2009年

  この本は、公共図書館で働く図書館司書がレファレンスカウンターで奮闘しつつ、図書館存続のために戦うお話です。私はこの本を読んで、大学時代に公共図書館でアルバイトをしていた頃を思い出しました。そのころ私は、ずっとレファレンスカウンターにいましたが、何を聞かれるのか分からない利用者の方からの質問がとても怖かったのを覚えています。
  「どこにあるの?」「この図書館にあるの?」というような所蔵調査であれば問題なく答えられたのですが、「確か~だったと思うのだけど…」とこの話の中にもあるように不確かなことを手掛かりに調査をしていかないといけないことだったり、質問をそのまま受け止めて利用者の方がされる質問の本当の意味を汲み取ることができていなかったり最初のころは何か聞かれる度におどおどしていたような気がします。
 (利用者)「地図が見たい」→(私)「地図」ではなく、(利用者)「地図が見たい」→「何が知りたいのだろう」と頭の中ですぐに変換できるようになってからです。レファレンスサービスの仕事が楽しいと思えるようになったのは。
   本書でも個性的な利用者たちがする質問に少しの手掛かりや、利用者の曖昧な記憶を元に資料が探し出される様が描かれており、レファレンスサービスの難しさや面白さが分かってもらえると思います。こんなことを手掛かりに資料を探すのかというようなことも面白く読んでもらえると思います。
  そして、図書館は、本を読む・借りる・課題をする以外に何をするところなのだろう、何をしてもらえるところなのだろうというのも少しは、分かってもらえるのではないでしょうか。

第56回 『美しい絵本。』

美しい絵本
   図書館司書 山岡 麻衣
   私のオススメ
    『美しい絵本。』

   ペン編集部編 
   阪急コミュニケーションズ 2009年

 本書は、雑誌「Pen」2008年6月1日号の特集「大人の創造性を刺激する、美しい絵本。」を再編集し発行された本です。荒井良二ほか6人の絵本作家の紹介や、仕掛絵本の歴史、絵本のキャラクターなど、絵本に関する様々な事が美しい絵や写真とともに紹介されています。
 7人の絵本作家が紹介されている章では、彼らがどのような場所・スタイルで絵を完成させているのか、制作におけるこだわりや考えなどがアトリエの写真とともに紹介されています。彼らの創作のスタイルには一人一人のこだわり・個性があり、使用する道具はもちろん、絵本に対する思いもそれぞれ違います。
 私は、幻想的な中にささやかなブラックユーモアを含ませる、ミヒャエル・ゾーヴァの絵が好きで、完成した絵でも自分の納得のいく形になるまで筆を入れていくという彼のスタイルに驚き、彼の絵から感じる深みはこのような姿勢から来ているのだなと感じました。作家のこだわりが込められた絵が文章に添えられる事で、より一層絵本の世界が輝き、子どもも大人も物語に引き込まれるのだと思いました。
 また、仕掛絵本の歴史について書かれている章では、1765年に初めて仕掛絵本が発行されてから現代までの進化の過程が写真とともに紹介されています。歴史の古さもさることながら、上下に絵が変わるブラインド式のものや、円盤回転式、本を開くと絵が立ち上がるポップアップ式等々、作家により生み出された様々な手法に驚きます。
 現在の仕掛絵本作家として紹介されている、ロバート・サブダの絵本は、本文中に「今までの仕掛を集大成し、さらに発展させている」とあるように、動くだけでなく、回転し、立ち上がる、その動きの一つ一つに圧倒されます。「ペーパー・エンジニア」と呼ばれるロバート・サブダの絵本は、当図書館にも所蔵していますのでぜひ一度手にとってみてください。
 この他にも、著名人のお気に入りの一冊や、世界の絵本美術館情報などが紹介されています。本書を読むことで、今までとは違った絵本の魅力を発見することが出来ると思います。

第57回 自分の時間をもっと楽しくしたい人にオススメ

ひとり暮らしをはじめる本
   図書館司書 山岡 麻衣
   私のオススメ
   『ひとり暮らしをはじめる本』

   成美堂出版編集部編 
   成美堂出版 2011年

 春は始まりの季節。この春からひとり暮らしを始めると言う人もいると思います。
 本書には、ひとり暮らしを快適にするための沢山の知恵が詰まっています。
 「part1 ひとり暮らしが決まったら」の章には、物件探しの条件や契約までの流れ、部屋を借りる際に必要となるお金の説明や、引っ越すときに必要となるものなどが可愛らしいイラストで分かりやすく書かれています。この章で出てくる「部屋を借りる際のお金いろいろ」と言う表では、物件探しで良く聞く「敷金・礼金・仲介手数料」などがどのような使われ方をするのか知ることができます。
 また、引っ越し費用には2~7万円、生活用品を揃えるのに大体8~15万円、敷金礼金などで大体家賃6か月分は用意しておくなど、生活を始める時にはこれだけのお金がかかるのかと驚くかもしれませんが、まずは自分一人で生活するための具体的な金額を知ることから、自立した生活をする第一歩なのかも知れません。
 「part2 インテリア」では、引っ越した部屋に用意したいものの選び方について書かれています。ベッドと布団のどちらにするかなど、両方のメリット・デメリットが記してあり、自分のライフスタイルに合わせてきちんと選択できるようになっています。その他の家具についても、自分自身ではなかなか気づけないさまざまな用途や置き方などの例が記してあるので、自分らしい部屋作りの参考に出来ると思います。
 そして、ひとり暮らしと言えば、お金・家具の他に立ちふさがってくる壁として「自炊」があります。「part3 ごはん」「part4 家事を楽しむ」ではキッチン道具の説明からひとり用ごはんのレシピ、冷凍保存の方法について役立つ情報が沢山載っています。
 中でも私自身参考にしたのは冷凍保存の方法です。料理を作りすぎてしまった時や、使いかけの野菜をなるべくいたまないように保存したい時は、本書に載っている方法で食材にあわせた冷凍保存をすることで無駄なく使うことができとても助かります。一緒に「電子レンジをフル活用」するコツなども載っているので、ぜひ役立ててみてください。
 本書のタイトルは「ひとり暮らしをはじめる本」とありますが、生活の知恵やガーデニング、アロマテラピーなど、自分の時間をより楽しく過ごすアイディアが沢山紹介されているので、家族と暮らしている人や下宿している人にも楽しく読めると思います。

第58回 少し疲れを感じている人にオススメ

朝5時半起きの習慣で人生はうまくいく!
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『朝5時半起きの習慣で、人生はうまくいく!" 』

   遠藤拓郎著
   フォレスト出版 2010年

 「五月病」という言葉を、みなさん1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。「五月病」とは、新年度が始まり、新しい環境に慣れようと頑張ることなどが原因で、ゴールデンウィーク明けから疲労感を感じたり、やる気が低下したりする状態のことです。そんな今の時期に、少し疲れを感じている人や、ゴールデンウィークの疲れが抜けないという人に本書をオススメしたいと思います。 「朝5時半起き」を本書が勧めているのは、朝早く起床して、朝の太陽の光をたくさん浴びることで体にとって良い効果が得られるからです。中でも私が気になったのは、ストレス解消の効果です。特別に難しいことをするのではなく、朝の太陽の光を浴びるだけで、ストレスが軽減されるのだそうです。 そして、この「朝5時半起き」を習慣にするには、冬になると日の出の時間が遅くなってしまうため、春分から秋分の半年間に習慣をつけておくことが大切だということです。 ちょっと疲れが溜まっている人や、新しく早起きの習慣をつけたい人は、今の時期に是非本書を手に取ってみてください。

第59回 雨の季節が憂鬱な人にオススメ

GIONGO GITAIGO J"ISHO
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『GIONGO GITAIGO J"ISHO』

   ピエ・ブックス発行 2004年

  私たちが普段何気なく使っている擬音語・擬態語。もしかすると擬音語・擬態語として意識さえせずに使っている言葉もあるかもしれません。事実、私はこの本を読んで改めて普段いかに多くの擬音語・擬態語を使っているかに気付かされました。擬音語・擬態語が意味そのものとして活用されている場合もあるのでそれらなしでは会話が成り立たないでしょう。
 そして、擬音語や擬態語の方がより分かりやすく伝わる場合もあります。例えば頭が痛いと一言で言ってもそれがどんな痛みかを表現する時には「ずきずき」とか「がんがん」で表現した方がより分かりやすく伝わります。
 さて、擬音語の中には、雨の音を表現する語もたくさんあります。思い付くだけでも「ざーざー」「さーっ」「ざーっ」「ざんざん」「しとしと」「どしゃどしゃ」「ぱらぱら」「びしょびしょ」「ぽたぽた」「ぽつり」「ぽつぽつ」「ぽつんぽつん」など。雨の降る量や雨の音が聞こえる場所など様々な要因で音が変わります。
 この本は、辞書と言ってもいわゆる学習用辞書と言うより読み物として楽しめる本と言った方が良いのかもしれません。中のデザインにもこだわりやいたずら心があり、目で見てもとても楽しめる本です。
 擬音語・擬態語についての例文がこれまたおもしろおかしく書かれていて、例えば「ぐさぐさ」の例文『リサの言うことはいちいちジョージの心にぐさぐさ刺さる。全部当たってるから』、「どかん」の例文『どかん。ストレンジ先生、今日の爆発はちょっと大きめ』こんな例文を読み進めるうちに登場人物の相関図が思い浮かび、誰がどんな職業でどんな生活をしていてどんな性格なのかまで分かるようになって来ます。
 これから雨の多くなる季節で気が滅入ることもあるかもしれませんが、雨の音に耳を傾けて、この本を広げて雨を楽しむのもいいのではないでしょうか?

  参考文献
  新村出編.広辞苑.第6版,岩波書店,2008
  山口仲美編.暮らしのことば 擬音・擬態語事典,講談社,2003

第60回 暑さを忘れたい人にオススメ

悪い本
   図書館司書 山岡 麻衣
   私のオススメ  
   『悪い本』

   宮部 みゆき作・吉田 尚令絵・東 雅夫編
   岩崎書店 2011年10月
 
 今年も暑い夏がやってきました。エアコンや扇風機など、暑さを和らげる方法は沢山ありますが、それらを使わずに涼を感じる手段として昔からある風物詩と言えば「怪談」です。
 怪談を聞く事を楽しむ人もいれば、「怖い話は苦手…だけどなんとなく気になって聞いてしまう」と言ったように、怪談の不思議な魅力に惹かれてついつい聞いてしまい、すごく怖い思いをしたという人もいるのではないでしょうか。
 本書は、『人生で初めて出逢う書物である「絵本」を通じて、良質な本物の怪談の世界に触れてほしい』という岩崎書店編集部の願いから生まれた、子どもも大人も楽しめる「怪談えほん」シリーズの第一弾となる作品です。
 原作は小説家の宮部みゆきが執筆、絵は書籍の装画や絵本を制作しているイラストレーターの吉田尚令が手がけています。
 本書を手に取ったとき、まずは表紙に描かれているぬいぐるみたちを良く見ておいてください。これからこのぬいぐるみたちの表情が、ページをめくるごとに恐ろしいものに変わっていきます。
 表紙にも描かれている「悪い本」と名乗るくまのぬいぐるみが、主人公の少女に悪い感情や悪いことを教えようと執拗に語りかけてきます。吉田尚令の描くおびえる少女と取り囲むぬいぐるみたちの様子が、怖さをより一層引き立てています。
 怪談えほん第一弾となった本書には幽霊は出てきません。怪奇現象も起こりません。人間の精神面に潜んでいる恐怖を、短い文章と美しく深みのある絵で表現したえほんとなっています。
 この夏、暑さを忘れたくなった時、そっと「悪い本」の表紙をめくってみてください。