バックナンバー 第111~第120回

第111回 青春小説を読みたい人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『あと少し、もう少し』

   瀬尾 まいこ 著
   新潮社文庫発行 2015年4月  

 「駅伝競走」を知っていますか?
 「駅伝競走」とは、一般的に「駅伝」と略される競技で、道路上の長距離コースを複数区間に分け、たすきを手渡してリレーをする日本発祥の競技です。本書は、この「駅伝」に取り組む市野中学校の男子生徒6人の物語です。
 メンバーは、陸上部部長で中学最後の駅伝にかける桝井。その桝井に誘われ陸上部に入部した内気な設楽。桝井、設楽と同じ小学校で中学では学校イチの不良の大田。頼みを断れずバスケ部を引退してから駅伝を始めたジロー。プライドが高く周りの空気が読めない渡部。そして、陸上部の後輩の俊介です。
 本書の面白さは、構成が6区構成になっているところで、その区間を走る人物の目線で描かれていきいます。そのため、1区の設楽は、2区で待ち構える大田のすごみのある顔を目にしてプレッシャーを感じ最後の力を振り絞りますが、かたや大田の心情はというと、設楽をびびらせないようにと精一杯笑顔を作っていたというのです。
 このように寄せ集めの6人は噛み合わず、それぞれがいろいろな思いを持って走っているのですが、この6人が協力してひとつのたすきつないでいくというところに、駅伝という競技の面白さや青春を感じてしまいます。
 すらすらと読み進められる読みやすい作品です。是非手に取ってみてください。

 

第112回 学ぶことについて、今一度考えたい人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『五色の虹-満州建国大学卒業生たちの戦後-』

   三浦 英之 著
   集英社発行 2015年12月  

 皆さんは、「建国大学」という大学があったのを知っていますか? 戦争中にも関わらず、日本全土や満州全域から選抜された「スーパーエリート」たちがそこにはいました。この大学では、日本人学生は、定員の半分に制限され、残りの半数は、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの民族の学生たちが在籍し、カリキュラムも語学が授業の三分の一を占めていたようです。
 そして、何と言ってもこの時代に考えられないような特権が彼らには、与えられていました。それは、「言論の自由」です。今の時代を考えると、そんなことかと思われるかもしれませんが、戦っている国の学生たちが自由に発言を許されるということは、当時では、考えられなかったことです。大学では、自由に議論が交わされたと言われます。
 しかし、日本の敗戦によって、開学からわずか8年しか存在し得なかった、建国大学。その大学を記憶している人は、ほとんどいないと言います。敗戦によって多くの資料が焼却されてしまったこと、戦後、それぞれの祖国へと散った卒業生たちが、後世に記録として残されることをひどく嫌ったせいであると言われています。そんな中、著者は、僅かな資料を手掛かりにその卒業生たちに話を聞き歩きます。
 この本を読むと「建国大学」の学生たちがいかにエリートだったのか、そして、卒業後にどんなに苦労をしたのか、今も決して語ることの許されない歴史があることを思い知らされます。胸が詰まるような、重く苦しい内容ですが、知っておくべき歴史がそこにあるように思います。
卒業生の百々和は、こう語っています。「建国大学は徹底した『教養主義』でね、在学時には『こんな知識が社会で役に立つもんか』といぶかしく思っていたが、実際に鉄砲玉が飛び交う戦場や大陸の冷たい監獄にぶち込まれたとき、私の精神を何度も救ってくれたのは紛れもなく、あのとき大学で身につけた教養だった。歌や詩や哲学というものは、実際の社会ではあまり役に立たないかもしれないが、人が人生で絶望しそうになったとき、人を悲しみの淵から救い出し、目の前の道を示してくれる。(略)私は、それを身につけることができる大学という場所を愛していたし、人生の一時期を大学で過ごせるということがいかに素晴らしく、貴重であるのかということを学生に伝えたかったんだ…」(本文p.101-102)

 

第113回 旅好きな人、旅には出たいけど近場が良いという人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『みちくさ』

   菊池 亜希子 著
   小学館発行 2010年2月

 私は、旅に出るのが好きです。見慣れない風景、知らない人々。そんないつもとは違う空気に触れたくて、時々ふらっと旅に出掛けます。昔は「旅」に対して、「細かく旅程を組まなければいけない」という、ある種の思い込みを持っていました。そしてそんな自分の考え方に、どこか窮屈さを感じていました。しかし、本書を読んでからは、そんな「ル―ル」から抜け出して、もっと自由に旅を楽しめるようになった気がします。今回はその理由にも触れながら、この本を紹介したいと思います。
 本書は、モデル兼女優の菊池亜希子さんが、自身が訪れた場所の思い出を、優しいタッチで描いたイラストと一緒に、日記風の柔らかい文章で綴っています。行き先は、原宿や代々木、浅草等、普段著者が仕事の拠点にしている東京都内のこともあれば、鎌倉や葉山、チェコといった場所のこともあります。
 私は本書を読んでいて、一つ羨ましく思ったことがあります。それは著者が、行き慣れた場所であっても、馴染みの薄い場所であっても、肩に力を入れずにのんびりとその土地、土地を回っていることです。気の向くままに、行きたい場所に行ってみる。そんな『みちくさ』というタイトルにぴったりな自由な旅のスタイルに憧れて、私も旅の計画を立てる際には、大まかな予定だけ決めておいて「後は現地に着いてから考えよう」というように、少し「余白」を作るようになりました。
 また、著者は、お馴染みの町を楽しむ天才だとも感じました。地元等の見慣れた場所でも、ちょっと視点を変えれば旅気分が味わえることを、本書は教えてくれます。旅が好きな人はもちろん、旅には出たいけど遠くまで行くのは億劫…という人にもオススメの一冊です。是非一度読んでみて下さい。

第114回 はたらくことについて考えている人にオススメ

 
オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『はたらく(人生をひもとく日本の古典 第2巻)』

   久保田 淳ほか 編著
   岩波書店発行 2013年7月
  
 2か月後には卒業して働くという人、現在就職活動をしている人、アルバイトをしている人、みなさんにとって働くことが身近なのではないかと感じたので本書を紹介します。
 私の心に残ったのは、働くことの喜びについて考えさせられる伊勢大輔のこの歌です。

    いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな

  解説者によると、この歌意ではなく詠まれた背景が働くことに関係があり、感動的だと書かれています。簡単に言うと、新人女房として仕えている時、紫式部らに命じられとっさにこの歌を詠んだところ、その場にいた人から大喝采を浴びたというのです。
 この歌から得られることは、後世に受け継がれる歌を詠んでいる点で「偉業」ではあるものの、伊勢大輔にとっては「絶賛」されたということがポイントで、これこそが働くことでの喜びではないかと書かれています。
 確かに、日々働いているなかで、毎日偉業を成し遂げるなんてことはありません。
 ただ、ちょっとしたことでも周り人から褒められたり、人の役に立ち喜ばれたというようなことは、頑張っていると得られることがあり、働く原動力になるように感じます。
 また、解説されているように、このような出来事を周りの人が忘れても、自分だけが覚えていて、幸せな気持ちになれれば十分ではないかという考え方も強く心に残りました。
 具体的な方法が書かれているわけではありません。ただ、ちょっとした働くことに対する気持ちの持ち方やこのような古典作品の解釈の仕方があるのだなという参考に本書を手にしてみてはどうでしょうか。

第115回 アートを感じたい人にオススメ  

オススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『直島から瀬戸内国際芸術祭へ ―美術が地域を変えた』

   福武總一郎, 北川フラム著
   現代企画室発行 2016年10月
  
  みなさんは、「瀬戸内国際芸術祭」をご存知ですか?2010年の夏から3年に1回、瀬戸内海の島々 を舞台に開催されている現代アートの祭典です。私は、この芸術祭に1回目から足を運んでいます。現代アートに全く興味を持っていなかった私が足を運ぶきっかけとなったのが2008年にオープンした            「犬島精錬所美術館」を訪れたことです。
 瀬戸内海に浮かぶ犬島は、人口50人にも満たない島です。犬島には、1909年から10年間しか稼働しなかった銅の精錬所が廃墟となって放置されていました。美術館は、その廃墟を上手く活用してアートとして再生させた美術館です。私は、初めてここを訪れた時に、何て不思議な空間なのだろうと思いました。美術館といっても作品が並んでいる訳でもなく、その美術館自体がアート作品なのです。すごくワクワクしました。
 豊島にある豊島美術館もそうです。作品の展示がある訳ではありません。空間、水、風、空、紐、あるものはそれだけです。でも、何度も訪れたくなる美術館です。
  この本を読んで分かったことですが、このような活動は、来訪者のためでもアーティストのためでもなく、そこに暮らす人のために地域を再生させる、地域の人に元気になってもらうという目的を持ってされているということです。私も実際に島を訪れて経験したことですが、島の中で作品を見ていると、近所のおばあさんが家から出てきて、意気揚々とアート作品の説明をしてくれるのです。飲食店がほとんどなかった島々に芸術祭開催の度に飲食店が増えていく光景、島を出た人たちが島の魅力に気付いて島に戻ってくる現象。人を迎えて地域を活性化させるということよりも、その地域に暮らす人たちが元気になることが、本当の意味での再生につながっていくのかもしれません。
 本書の中に、アートについてこのように書かれた文があります。「アートという言葉は、日本語では『美術』と書きます。(略)しかし本来は、アートとはアーティフィシャルな技術、つまり人間と自然や社会との距離を明らかにし、手を使ってそれを表現する方法のことです。アートを自然や社会に関わる技術と捉えることで『美術』という限定されたイメージを超えた多様な可能性が開かれます」(p.78)まさにこの瀬戸内芸術祭は、それを表しています。「在るものを活かして、無いものを創り出す」。この本を読むとアートに触れたくなること、間違いなしです。 

 

第116回 頭を柔らかくしたい人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『あたらしいあたりまえ。:暮らしのなかの工夫と発見ノート』

   松浦 弥太郎著
   PHP研究所発行 2012年11月
  
  皆さんは、気分転換したい時はどうしますか?おいしいものを食べたり、友達と話したり、たっぷり眠ったり…人それぞれ、色んな方法があると思います。また、何か嫌なことがあった時はどうしますか?「忘れようとする」「覚えておこうとする」等、これも人によって違うと思います。他にも様々な場面で、「こんな時はこうする」「こんな時はこうすべきだ」といった、自分の中にある「あたりまえ」を基準にして、私たちは日々生活しています。しかし「あたりまえ」であるが故に、それらとじっくり向き合う機会は少ないのではないでしょうか。
 本著の中で著者は、「あたらしいあたりまえ」を見つけることを読者に提案しています。これはつまり、毎日の暮らしの中に存在している色んな「あたりまえ」になっていることを探してじっくり観察し、改善すべき点を直す作業です。例えば、著者自身が見つけた「あたらしいあたりまえ」の例として、以前は「腹八分目」まで食べていた所を、「腹六分目」に抑えることにしたというエピソードが紹介されています。それは何故かと言うと、心身ともに「余裕」を持たせる為だそうです。食べ過ぎると、体調を崩すかもしれませんし、そうすると気持ちも落ち込みます。お腹に「ちょっとだけ」余裕を残すように食べることは、著者にとって、体調面でも精神面でもちょうど良い状態を保つ秘訣なのです。
 私は本書を読んで、自分にとって「あたりまえ」になっていることを、一度見つめ直すことが出来ました。例えば私は、リラックスしたい時はよく寝転がるのですが、途中で「こんなにだらだらしていて良いのだろうか…」という気持ちになってしまい、休んだ気がしないことが多々ありました。しかし、本書の中で著者は、寛ぐことは気持ちの問題であり、だらだらとした格好をすることではないと語っています。おかげで、立っていても座っていても、気持ちが穏やかであれば「リラックス」していることになるのだと気付かされました。
 皆さんも、自分にとって心地良い「あたらしいあたりまえ」を探してみませんか?  

第117回 元気になりたい人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『ランチのアッコちゃん』

   柚木 麻子著
   双葉社発行 2013年4月
  
  「NOが言えないっていうよりも、YESしか言えないんじゃねえの?」と彼氏にフラれたばかりの澤田三智子は、ある日1週間分のランチを上司と取り替えることに。
 ある大物歌手に似た見た目と「敦子」という名前から陰で「アッコ」と呼ばれているこの上司は、三智子のお弁当がおいしかったからという理由で、1週間自分のお弁当を作る代わりに、自分のランチコースを渡すという提案をしてきます。上司のお弁当を作るなんて気が重い、提案と言うより命令だと思いながらも、案の定、三智子はNOと言えず受け入れてしまいます。
 しかし、このランチの取り替えをきっかけに、三智子は知らなかったアッコ上司の顔や趣味などを知ることになり、同時にランチ先で出会ったアッコ上司の友人と接することで仕事や生活に楽しさを見つけていきます。
 おいしそうなランチとちょっとした出会いや勇気によって広がっていく三智子の世界触れることで元気がもらえる、前向きになれる作品です。  

第118回 出会いなおしたい人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『出会いなおし』

   森 絵都著
   文藝春秋発行 2017年3月
  
  自分の周りにいる家族や友人、恋人等々、長く付き合っていると、「あれ?この人こんな人だったっけ?」と思うことがありませんか?かく言う私自身、高校時代に知り合った友人がいますが、正直、その頃はすごく苦手でした。大学時代、まだ少し苦手で、大学を卒業して、最近になってようやく、こんな話しやすい人だったのかということに気付き、今でも親しくしています。 友人に変化があったのか、私にあったのか、きっとどちらにもあったと思いますが、人と長く付き合っていると、その人との付き合いも変わってくるような気がします。どんなに知っていたつもりでも、知らなかった一面が見えてくることもよくあることです。この本で言う所の「出会いなおし」です。
 「年を重ねるということは、おなじ相手に、何回も、出会いなおすということだ。
  会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる(p.35)」
 出会いなおし。私には、すごくしっくりくる言葉でした。人は、何度も出会いなおしを繰り返しているのかもしれません。
 さて、肝心の本の内容ですが、短編集になっていて、様々な人の様々な出会いなおしが描かれています。それが、いつも良かったと思えるような結果ばかりではないかもしれませんが、この登場人物たちを客観的にみて感じるはずです。そして、気付くはずです。あなたもたくさんの人と、何度も出会いなおしをしていることを。
 出会いなおしてみたい誰かがいる、そんな人にオススメの1冊です。  

 

第119回 優しい気持ちになりたい人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『よるのばけもの』

   住野 よる著
   双葉社刊 2016年12月
  
  皆さんは、自分の意見をはっきりと伝えられるタイプですか?私は、相手からどんな反応が来るかを想像して緊張してしまい、上手く言葉が出てこないことがしばしばあります。
本書の主人公の少年「安達」も、他人の反応を気にするという点で、そんな私と似ています。但し、タイトル通り、夜になると、全身真っ黒で六つの足・八つの目玉のついた化け物に変身してしまうという特殊な性質を持っています。
 ある夜、いつものように化け物の姿になった彼は、学校に忘れ物を取りに行った時に、偶然クラスメイトの少女「矢野」に見つかってしまいます。彼女は「夜休み」と称して、しばしば夜の学校に忍び込んでいたのです。この出来事をきっかけに、夜の学校での二人の交流が始まります。
 しかし、「昼」の彼は、彼女に一切関わろうとはしません。なぜなら、クラス内でいじめの標的にされている彼女に接触してしまったら、自分も同じ目に遭うかもしれないという不安があるからです。彼女が他のクラスメイトから嫌がらせを受けていても、黙認しています。一方「夜」の彼は、彼女と自然に会話をしています。このように「人目」があるかどうかで、彼の内面は著しく変化します。
 私は彼を見ながら、もしかしたら誰しもが、良くも悪くも「化け物」なのかもしれないと思いました。学校での自分、職場での自分、家庭での自分…環境に応じて色んな「自分」に「化ける」のではないでしょうか。しかし、そうした自分が生み出した「もう一人の自分」を、本当の意味での怖い「化け物」にしてしまわないように、時々見つめ直す作業が必要だと思います。自分に無理をしていないか、誰かを傷付けていないか…そうすることで、優しい「化け物」が増えていったら良いなと思います。
 皆さんの中には、「化け物」がいますか?  

 

第120回 松江が出てくる作品を読みたい人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『やめるときも、すこやかなるときも』

   窪 美澄著
   集英社 2017年3月発行
  
  主人公の須藤壱晴は、高校時代を過ごした松江で起こった「ある出来事」がきっかけで心に大きな傷を負い、10年以上が経った今でも傷を克服出来ずにいます。そのため、普段は家具職人として仕事に向き合っていますが、1年のある時期になると体に異変が表れてしまいます。
 そんな壱晴を取り巻く、ほかの登場人物たちもそれぞれ人には知られたくない悩みや問題を抱えています。中でも、家族からの暴力などの家族に関する悩みが多く描かれています。家族を変えることは出来ないという現実を考えると、どうすることも出来ない苦しさや悔しさを感じ、私は少し暗い気持ちになってしまいました。と同時に、そのような恐怖がなく過ごせている環境に幸せだなとも感じました。
 少し重い悩みを持った人たちが登場しますが、宍道湖や松江城、塩見縄手など松江の名所や町並みなどが描かれているので、松江を知っている人だと特に作品に入っていけると思います。是非、手に取ってみてください。