バックナンバー 第221回~第230回
第221回癒しを求めている人にオススメ

松江キャンパス 図書館職員 廣田 久美
『とにかく散歩いたしましょう』
小川 洋子著
文藝春秋 2015年7月発行
この本はタイトルをみて「そのとおり、鈍っている今の私には散歩が必要」と思い手に取りました。タイトルのもとになった老犬ラブと毎日の散歩や日々感じたこと、人々との関わりなど46篇からなるバラエティ豊かなエピソードが収録されています。そして、どのエピソードにも必ず本が登場します。エピソードを読みながら、様々な本を紹介してもらえるのも本書の魅力です。
例えば、あるエピソードの中に出てくる『ハダカデバネズミ:女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー)』は、その名のとおり、裸のような出歯のネズミの話。ハダカデバネズミの社会には、ふとん係が存在し、女王に赤ちゃんが生まれると新しい命を守るために仲間たちが身体を寄せ合い、文字どおり“肉布団”となって身を捧げるのです。床に寝そべり、身体を丸めて重なり合う姿は滑稽でありながら、その必死さが目に浮かびます。このエッセイを読んでいると、紹介された本も次々と読んでみたくなります。
さて、本のタイトルにもある『とにかく散歩いたしましょう』は、もちろんラブとの散歩のことですが、その文中にある「ラブは、『ひとまず心配事は脇に置いて、とにかく散歩いたしましょう。散歩が一番です』とでも言うかのように、魅力的な匂いの隠れた茂みを目指してグイとリードを引っ張った」という一文。
私たちは、モヤモヤしたり、どうしようもないことで悩んでいたり、あらぬ心配をしたり、生きていく中で当たり前にそんな場面に遭遇します。そんなとき「とにかく散歩いたしましょう」この言葉は、どんな励ましの言葉よりも思考を切り替えてくれる一言ではないでしょうか。本人は、散歩している場合じゃない、けれどそんなことラブには関係ない。そんなことどうでも良いから、まずは散歩しましょう。私は、犬は飼っていないけど、もし、どうしようもない思考に陥ったら、頭の中でラブが「とにかく散歩いたしましょう」と言うのを思い浮かべ、散歩してみようと思います。
その他にも心温まる内容が詰まっており、一篇がそれぞれ3~4ページからなるエピソードです。読みやすいのでおススメです。
第222回 「そういえば最近、映画館に行っていないなあ」と感じている人にオススメ

松江キャンパス 図書館職員 林 知代
『映画パンフ大百科』
映画パンフは宇宙だ!著
文藝春秋 2026年7月発行
『映画パンフ大百科』は、映画パンフへの愛とリスペクトが詰まった本です。
著者は、「映画パンフは宇宙だ」(PATU)という、映画パンフをひたすら愛する有志団体。この本に登場するのは、「作り手の熱い思いと、受け手の狂おしいほどの愛着」が交錯する映画パンフの百花繚乱の大宇宙に魅了された人たちです。
映画を観ても、パンフレットを買ったことがないという人も多いかもしれません。そんな人にも、その魅力が十分に伝わってきます。多彩なパンフレットの紹介をはじめ、制作現場の裏側、愛好家のパンフ愛、映画パンフの歴史など、さまざまな角度からその世界を深掘りしています。
映画パンフは、じつは日本で独自に育ってきたものだそうです。映画そのものでも、本でも、グッズでも、宣伝物でもない「はざまの存在」、映画鑑賞体験をより豊かにしてくれる師であり友人。 読み進めるうちに、映画パンフを買いに映画館へ行きたくなってきました。好きすぎる人たちの情熱は、感染しやすいのでご注意ください。