バックナンバー 第211回~第220回
第211回 「真実」を追求してしまう人にオススメ

松江キャンパス 図書館司書 北井由香
私のオススメ
『怪物』
坂元裕二脚本 是枝裕和監督
宝島社 2023年5月発行
「怪物、だーれだ?」
ある日、郊外の学校で起きた、子ども同士の小さなトラブル。だったはずが…。 この物語は、母親、教師、そして子どもたち、それぞれの視点から語られることで、まったく違う「真実」を徐々に浮かび上がらせていきます。登場人物たちは皆、誰かを守ろうとし、正しいことをしようとします。けれど、その「正しさ」が、誰かを深く傷つけてしまうこともあり、「正しい」と信じているその裏には、加害者が潜んでいることもあるのです。
読むたびに、登場人物の見え方が変わり、あなた自身の中にも「怪物」がいるのではないかと問いかけてきます。坂元裕二は、「自分が被害者だと思うことには敏感だが、加害者であることには気づきにくい」という人間の心理を脚本に込めたと語っています。
私には、この物語は、胸が締め付けられるほど、切なくてとても苦しかったです。最後はハッピーエンドであってほしいと願っています。
第212回 わくわくした気持ちを思い出したい人にオススメ

松江キャンパス 図書館職員 野津恵
私のオススメ
『未来ちゃん』
川島小鳥著
ナナロク社 2011年4月発行
連続テレビ小説『ばけばけ』が、いよいよ始まりましたね。夫婦デュオのハンバートハンバートさんが歌う穏やかな楽曲に合わせて、仲の良い様子の主役夫妻と松江の風景の写真がたくさん出てくるオープニングがとても印象的で、毎回見入ってしまいます。そのオープニングや宣伝ポスターで使われている写真を撮影したのが、この本の著者である写真家の川島小鳥さんです。
この本は、佐渡島に住む3歳の女の子の1年を撮影した写真をまとめたもので、『未来ちゃん』は、女の子の名前ではなく、この写真集のテーマだそう。写真の感じは、未来というよりも、逆に懐かしい昔の映像を見ているようですが、島の自然の中で全力で遊び、食べ、笑い、泣いている女の子の姿とキラキラ輝く大きな瞳を見ていると、前向きな未来を思うのと同じように、わくわくするように感じます。
たまに思い出して開きたくなる、私の忘れられない一冊です。