バックナンバー 第101~第110回

第101回 「系統樹って何?」という人にオススメ 

おススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『系統樹思考の世界-すべてはツリーとともに-』

   三中 信宏 著
   講談社発行 2006年7月 

 私がこの著者の本を読むきっかけになったのが、今年、横浜パシフィコで行われた「図書館総合展」この図書館総合展で、この三中先生の「ヒトはつい、分類してしまう生き物だった」という講演を聞いて系統樹思考と分類思考に興味が湧きました。
  私は、普段業務で図書を分類します。そんな訳で最初は、分類をするということに興味があってこの講演を聞いたのですが、その分類と系統の対比が面白く、そ して、非生物も系統樹という表現手段によって由来の関係を図示することが出来る等、こんなところにまで系統樹が及んでいるのかというのは、系統樹を難しく 捉えていた(生物学的に捉えていた)私にとっては、とてもひきつけられるお話でした。
 本書にあった例ですが、平成8年から9年にかけて話題に なったと言われる「棒の手紙」(私は、この本を読んで初めて知りました。)手紙の内容は、こうです。『28人の棒をお返しします。これは、棒の手紙と言っ て知らない人から私の所にきた死神です。あなたの所で止めると必ず棒が訪れます。12日以内に文章を変えずに28人に出して下さい。これはイタズラであり ません(省略)』
 ここまで来ればもう分かるかもしれませんが、これは、最初は「不幸の手紙」として送られたものです。それが、途中の書き写しの 間違いによって「不」と「幸」がくっついて「棒」になったのです。棒になった以外にも最初とは全く違う部分が各所にあるようなのですが、どこで間違って いったのか、どこから違う表現になっていったのか、それらも、この棒の手紙を研究した人によって系統樹で示されています。
 このように系統樹は、決して生物だけに起こるものでは、なく普段の日常に普通にあることが分かります。というよりもほとんどのものが系統樹によって示すことができるのではないでしょうか。
本 書で分類思考は、認知心理的な感性であるのに対し、系統樹思考は、アブダクションとしての推論であるとされます。そして互いに相矛盾すると。言われてみれ ば、当たり前のことかもしれませんが、そのことがよく理解出来ました。そして、系統樹そのもののルーツについても深く知ることが出来ました。初心者にもと ても分かりやすい本になっています。
 また、同じ著者で「分類思考の世界」という本も出ていますので、興味があればそちらも是非読んでみて下さい。あなたは、どちらの思考に興味があるでしょうか。

 

第102回 何が大切なのか考えてみたい人にオススメ

おススメ本
   図書館司書 安達 美咲
   私のオススメ
   『アルジャーノンに花束を』

   ダニエル・キイス 著
   講談社インターナショナル発行 1999年4月 

 今回私がオススメするのは2002年と昨年2015年に2回もドラマ化された「アルジャーノンに花束を」です。
  この物語は1950年代のアメリカを舞台に知的障害を持つ主人公チャーリーの「経過報告」という一人称で構成されています。
 明るく、優しい性格のチャーリーは日頃から賢くなりたい、賢くなれば友達も増え、楽しい生活が送れると思いながら生活していました。そんなある日彼が読み書きを教わっていた先生の推薦である教授が研究していたIQが高くなる手術をし、一時的に知能指数が高くなり、天才と呼ばれるまでになりましたが、薬の効果は一時的なもので、やがて急激にIQが低下し、元の知能指数よりも低くなってしまう、という内容です。
 チャーリーは知能が上がっていくにつれ、知識を得る歓びや学習する喜びを感じていましたが、それと同時に友人だと信じていた仕事仲間に騙され、いじめられていたことや、自分の複雑な家族関係のことを知って傷つき、どんどん疑り深く傲慢になっていく自身の性格に悩んだり、元の知能よりさらに知能指数が低下することに恐怖を感じているのが痛いほど伝わり、「頭が良くなる」という事は人にとって本当に大切な事なんだろうか。人にとって大切で、幸せな事はもっと他にあるのではないか、という事を改めて考えさせられる内容となっています。
 この機会にぜひ手にとって見てください。

第103回 気持ちや印象を変えてみたい人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『ヒットの「色」じかけ(ベスト新書)』

   高坂 美紀 著
   KKベストセラーズ発行 2007年4月 

 本書によると、色は仕事やプライベート、人間関係にまでかなり影響を与えているのとのこと。そのため、「色」を意図的に使い分ける技と知識を知っているということは強力な武器になるらしいのです。
  例えば、仕事への色の活用法のひとつに、マウスパッドは疲れを和らげてくれる「ライトブルー」が良いと紹介されています。実は、図書館のマウスパッドは 「ライトブルー」。もちろん、学生のみなさんが使うパソコンのマウスパッドも「ライトブルー」です。ライトブルーなどの寒色は、時間の経過を早く感じさせ る効果もあるため長時間集中力を続かせるためにも効果的なようです。これを知ってマウスパッドを見ると、ほっとする優しい色だな感じ、ちょっと気持ちが軽 くなる、そんな気持ちになるのは私だけでしょうか。
 このような色が与える印象は、人に対しても同様で持ち物の色や身に着ける物の色によって相手 に与える印象も大きく違うため、これを活用した自分の長所を引き立てる色の選び方なども書かれています。就職活動などで「色じかけ」を効果的に使って自分 の気持ちや印象をコントロールしてみてはどうでしょうか。

    

第104回 数学が苦手な人にオススメ

オススメ本 
   図書館司書 安達 美咲
   私のオススメ
   『博士の愛した数式』

   小川 洋子 著
   新潮社発行 2005年12月 

 今回私がおすすめする物語は、交通事故による脳の損傷で記憶が80分しか持たなくなってしまった数学者「博士」とその家に派遣された家政婦の「私」、そして「博士」によって「ルート」と言うあだ名を付けられた「私」の息子の3人の日々が描かれた物語です。
 物語の中では「博士」が「私」や「ルート」に教えていたり、自分で考えたりする際に様々な定理や数式が出てきますが、数学が苦手な私でも全く気にならずするすると読めましたし、「友愛数」「素数」「完全数」など日常生活の会話にはあまり出てこない「数字」ですが、少し考え方を変えるとその「数字」が人と人とをつなぐ縁にもなるのだな、と気づかされました。
 この本を読んでみて、今まで気づかなかった「数字」での人との縁をさがしてみるのもまた面白いかもしれませんよ。

 

第105回 桜の季節にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
   私のオススメ
   『桜(日本のたしなみ帖)』

   『現代用語の基礎知識』編集部編
   自由国民社発行 2015年2月 

 日本人は桜好き。多くの人が感じていることではないかと思います。この時期になると桜の開花宣言や桜の中継がニュースで流れ、天気予報でも桜の見ごろをお知らせ。今週末を逃すとお花見は難しいかもという言葉と共に週間天気予報へという流れは私たちにとって違和感の無いもののように思います。このように私たちの生活に溶け込んでいる桜について、本書を読むと日本人は本当に桜が好きなのだという思いが強くなります。
 740年に成立した『日本書紀』にはすでに桜が登場し、数多くの古典芸能の演目にもなり、花を楽しむだけではなく、桜の樹皮を使った工芸品や枝を使った桜染めなど多くの桜にまつわる事柄が紹介されています。日本の伝統的な文化の理解を深めるためには、桜は外すことの出来ないものではないかと思いました。
 お花見が出来なかった人、お花見はしたけれどまだまだ物足りないという人、本書を通じて桜に染まってみませんか。

 

第106回 迷っている人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『ポケット詩集』 田中和雄編

   童話屋発行 2000年6月    
 
 私が詩を読むようになったのは、以前に本学の先生に紹介してもらった1冊の詩集がきっかけでした。それからその著者の詩を、そして、色々な著者の詩を読むようになりました。
  詩は、短い文であるにも関わらず、その文に心を打たれ、何気ない言葉に気付かされ、見えていなかったものを見せてくれます。こういう風に生きたらいい、こ うすればいいというようなことが書いてある指南書ではないけれど、私にとっては指南書のような存在でもあります。捉え方が難しいものや分かりにくいものも ありますが、分からないものは、分からないものとして、自分なりの自由な読み方をしてもいいものだと思います。
 詩についてこんなことを言って いる人がいます「引き出しの奥に仕舞われているもう動かない腕時計、お気に入りだったコートのボタン。海辺で拾ったきれいな貝殻。好きな人の文字が記され たメモ用紙。嬉しい贈り物をもらったときの包み紙。それらは実生活で何かの役に立つことはないし、あなた以外の人にとってはおそらく意味のないものです。 でも本当は、そのような役に立たず意味もないけれど大切だと感じるささやかなものたちの集積こそが、この世でただ一人のあなたの軌跡であり、あなた自身を 深いところでつくっているのではないでしょうか。詩はそういうものたちの存在によく似ています。」と。
 もし、何かに迷っていたり、悩んでいたら、詩を読んでみてはどうでしょう。答えに出会えることがあるかもしれません。何かに気付かされることがあるかもしれません。
 最後にこの『ポケット詩集』の中から詩を1つ紹介します。
 私にとって背筋が伸びる詩です。(※許諾を得て掲載しています)


聴く力(茨木のり子)

ひとのこころの湖水
その深浅に
立ちどまり耳澄ます
ということがない

風の音に驚いたり
鳥の声に惚(ほう)けたり
ひとり耳そばだてる
そんなしぐさからも遠ざかるばかり

小鳥の会話がわかったせいで
古い樹木の難儀を救い
綺麗な娘の病気まで直した民話
「聴耳頭巾(ききみみずきん)」を持っていた うからやから

その末裔は我がことのみに無我夢中
舌ばかりほの赤くくるくると空転し
どう言いくるめようか
どう圧倒してやろうか

だが どうして言葉たり得よう
他のものを じっと
受けとめる力がなければ  

    

第107回 パラレルワールドに興味がある人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 安達 美咲
   私のオススメ
   『パラレルワールド・ラブストーリー』

   東野 圭吾 著
   講談社発行 1988年3月    
 
 今回私が紹介する図書は東野圭吾さんの「パラレルワールド・ラブストーリー」です。
 この物語は主人公の敦賀崇史が毎週火曜日に乗っている電車とは逆方向に併走している電車に乗っている女性、津野麻由子に一目ぼれをするところから始まります。
お互いに、電車ですれ違うたびに見つめ合っているだけの関係でしたが、敦賀の就職により乗る電車が変わったことから津野と電車ですれ違うこともなくなり、始まることもなく終わった恋でした。
しかし1年後、敦賀の中学時代の親友である三輪智彦から恋人として紹介され、思わぬ再会を果たしたのが津野麻由子でした。敦賀はいけないと思いながらも津野に惹かれ、三輪に嫉妬を覚える自分を嫌悪し「友情」と「恋愛」で揺れ動きながら生きる世界と、津野と敦賀が恋人同士で同棲しており、仕事でも成功して名声を得ている世界で生きる敦賀の物語が交互に書かれています。
 この2つの世界で過ごすうち、敦賀は最初気づかなかった記憶の矛盾点をみつけその矛盾を解いていくことでこの2つのパラレルワールドの真相に気づくことができるのですが、敦賀の過ごしている「世界」の真相とはいったい何だったのか。この本を読んでその結末を確かめてみてください。

 

第108回 辞書を使うのに疲れている人にオススメ

オススメ本
   図書館司書 馬庭 佳緒里
    私のオススメ
   『舟を編む』

   三浦 しをん 著
   光文社発行 2011年9月 

  最近カウンターにいて、辞書を使って調べものをしている学生が多いなと感じています。課題に取り組んでいるのだと思いますが、棚から辞書を引き出して机に戻り、また棚へ行っては辞書を引くというのを繰り返している姿を大変そうだなと見ています。
 基本的には見ていることしか出来ないため、本書を紹介して応援します。
 玄武書房の辞書編集部が新しい辞書『大渡海』の編纂に取り組む日々について書かれた物語です。辞書に掲載する用例の採集や原稿の文体の統一、校正刷りのチェックなど様々な作業工程があり、その上膨大な量のため辞書の編纂は地味で根気のいる作業です。
 本書の楽しさは、このような辞書編纂について知ることが出来るだけではありません。編集部の個性的な面々の言葉の捉え方や辞書の世界に没頭する様子も作品に引き込まれる理由の1つです。
 辞書は、整然と文字が並んでいて固い印象ですが、玄武書房の編集部の個性的な人たちを想像すると辞書に温かみが感じられ、読み終わると実際に辞書を開いてみたい気持ちになります。
 これから辞書引くのが少しでも楽しくなればという気持ちでオススメします。

第109回 毎日のように迷惑メールがくる人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 北井 由香
   私のオススメ
   『迷惑メール、返事をしたらこうなった。
                                           -詐欺&悪徳商法「実体験」ルポ』

   多田 文明著
   イーストプレス発行 2013年11月
    
  携帯メールや、PCメールに毎日のように送られてくる迷惑メール。上手い誘い文句が書かれていて思わずクリックしそうに…なんて経験ありませんか?そんな経験がある人もない人も是非読んでみて下さい。内容は、著者が敢えて迷惑メールに返信をしたらどうなるか、その顛末が書いてあります。そのやりとりは、興味深く様々な手口があるのが分かります。そして、「通販メール」「なりすましメール」「架空請求メール」「友達申請メール」など様々な種類の迷惑メールがあることもよく分かりました。
 本書を読んでいると、そのやりとりは明らかにおかしい内容で、客観的にみるとこんな手口に絶対にひっかからないだろうと思ってしまいます。このように明らかにおかしいものについては、見極めることが出来るのですが、例えば自分が信用して普段から利用しているお店やサイトからのメールが来たらどうでしょう?騙されないとは言い切れません。疑わずに住所を登録していませんか?個人情報を簡単に載せていませんか?実際に毎年多くの人が被害に会っていることも事実です。自分には、おかしいものを見極める力がある、絶対にひっかからないと思わず、ちょっと立ち止まって考えてみてください。

 

第110回 肩の力を抜きたい人にオススメ

 オススメ本
   図書館司書 古德 ひとみ
   私のオススメ
   『死神の浮力』

   伊坂 幸太郎 著
   文藝春秋発行 2013年7月
      
 突然ですが皆さんは、「死」に対してどんなイメージを持っていますか?おそらく「怖い」「恐ろしい」といった、暗い印象を抱いている方が多いのではないかと思います。かくいう私もその一人なのですが、本書を読んだことでそのイメージが少し変わりました。今回はそのきっかけとなった場面に焦点を当てながら、本作品を紹介したいと思います。
 作中には何度か、主人公・山野辺遼の父親が自らの「死生観」について、息子の遼に語るシーンが登場します。「死」に対して怖いイメージを持っていた遼の父親は、「日々を摘む」こと、つまりその日その日を一生懸命生きることで、その恐怖と戦っていたこと告白します。そして死の間際には、(死後の世界について)「そうだ。怖くない。大丈夫だ。俺が先に行って見てきてやるから」と言い残します。
 人間は死後どうなるのか、誰も本当の答えを知りません。だからこそ、「恐怖」を感じるのだと思います。しかし、それは裏を返せば「死後の世界が怖い場所とは限らない」ということも、同時に示しているのだと思います。いつか来るその日を恐れすぎず、毎日をしっかり生きることの大切さ。遼の父親の話は、そういったことに気づかせてくれるきっかけを、私に与えてくれました。
 ・・・と、ここまでは重たいテーマを軸に本書を紹介してきましたが・・・もちろんそればかりでなく、くすっと笑える場面も数多く登場します(個人的には、山野辺夫妻と行動を共にしている死神・千葉が時折見せる、天然?と思わせる行動も見どころだと思います)。
 尚、本書は『死神の精度』の続編ですが、そちらを読んでいない人でも読むことが出来る構成になっています。秋の夜長にぜひ、読んでみて下さい。